子どもの母語と日本語教育 (Q&A) 1

このページは、香港・日本で日本語(言語・母語・継承語) に関わられている専門家の方々にご協力をいただき、作成しました。

【質問1】

現在2歳9ヶ月になる娘がいます。両親ともに日本人で、アマさん(フィリピン人などの住み込みのお手伝いさん)はいません。
そろそろ幼稚園に3時間だけ通わせようかと考えているのですが、幼稚園をインターにするか、日系にするかで迷っています。
今後も海外赴任の可能性が高く、娘には英語に慣れ親しんでいてもらいたいし、せっかくの海外生活中に、さまざまな人種や考え方があることを学び、いろいろ な異文化体験もさせたいという気持ちもあり、インター幼稚園への入園を中心に考えているのですが、一方で、日本語を母国語として確立できるのかという不安 もあり、きれいな日本語を身につけてほしいという思いもあります。

① 家庭では100%日本語を使うとして、午前中3時間だけ英語による社会生活を送った場合、どのくらい2,3歳の子に影響を及ぼすのでしょうか?(日本語に英語がプラスされるのではなく、日本語のレベルが落ちるというようなマイナスな影響のほうが大きいのでしょうか?)

② また、3時間でも影響がある場合、インターに入れたとしたら、家庭では具体的にどのようなケアを行ったらよいのでしょうか。

どうぞ、アドバイスをよろしくお願い致します。
(香港在住3年 Y・T)

【回答1】質問①のお答え:
言語に触れる(インプット)ことは、子どもたちの言語発達にとってたいへん重要なことです。インプットについては、量と質の量側面からその影響を考える必要があるといわれています。
ですので、3時間英語による社会生活を送ったから、どのぐらいの英語力がつくかという点については、どのようなインプットで、どのような環境で英語を聞き 話すのかによっても異なると思います。それでも、周囲の子ども、チャンク(塊)で覚えた英語表現を使って、その場の状況に関わる簡単なやりとりができるよ うになることは期待できると思います。
ただ、それを数量化してとらえることは困難です。ご相談のお子さんの場合は、家庭内で親御さんと日々日本語で生活をし、成長しているのであれば、日本語の力が弱まるということはないと考えられます。質問②のお答え:
幼稚園の年中組、年長組と成長していくうちには、言語で物事を記憶したり、それを思い出してお話をしたり、物事の前後関係や因果関係について認識し、それ を言語化して伝えるという力を少しずつ発達させていきます。幼稚園での読み聞かせ活動や工作活動などのさまざまな活動は、こうした力を徐々に発達
させるために意図的に構成されているはずです。
これらの活動で発達したプレリテラシー(読み書きの言葉の力の前段階の力)の力が、小学校に入ってからも学習内容の理解や学習活動に参加する場面で発揮されていきます。
3時間の幼稚園の活動でも、きっとお子さんは、徐々に物事を考えるための力の基礎となる言葉の力(英語)をはぐくんでいくと思われます。
家庭でも、日本語でそうした力をつけるために、読み聞かせを行ったり、見たこと聞いたことに関して順番や理由などについてやりとりをしたりしてみてはどう でしょうか。幼稚園の活動で培われたものの見方や考え方は、家庭での日本語でのおしゃべりにも生かされるかもしれません。

最後になりますが、幼児期の場合は、2言語併用状況もそれほど苦にならないかもしれません。小さい頃から2言語環境にある子どもは、3歳ごろには、相手に合わせで言語を選択しておしゃべりするとも言われています。
ただし、小学校に入り読み書きの学習が伴うようになった場合は、二つの言語を同じように発達させていくには、意図的計画的な教育が必要ですし、子どもたちにとっても一定程度の負担がかかることは間違いありません。

そこで、将来的に子どもがどこに生活の基盤を置くのかということが、重要な問題になってきます。香港で生活するのであれば、香港で自己実現するための言語 をまずは、高めていくことが大事だと思います。それが英語なのか、広東語なのか…。さまざまな世界の動きの中で、判断が難しいですが。日本で生活するとい うのであれば、日本語で考え、感じたことや思ったことを言葉で伝え、問題を解決する力が、まずは重要ということになります。
こうした将来的な見通しを明確にしてから、お子さんの言語の力として、どの言語を中心に発達させていくことが適当なのかという決定をする必要があると思います。
その上で、もう一つの言語の力を高める場合は、何のために、どの程度の力をつけることが子どもにとっていいのかを考えてください。そうして、言語環境をどう整え、どう教育するのかを決定することが大事だと思います。

 

【ご回答者(齋藤ひろみ先生) プロフィール】

東京学芸大学 教育学部 教授
所属研究組織:人文社会科学系日本語・日本文学研究講座日本語教育学分野
所属教育組織:人文社会科学群日本語教育教室

著書紹介:
文化間移動をする子どもたちの学び―教育コミュニティの創造に向けて―
齋藤ひろみ・佐藤郡衛 編集
ひつじ書房
http://www.hituzi.co.jp/books/343.html
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「移動する子どもたち」のことばの教育を創造する―ESL教育とJSL教育の共振―
(シリーズ多文化・多言語主義の現在)
川上郁雄・石井恵理子・池上摩希子・齋藤ひろみ・野山広 編集
ココ出版
http://cocopb.sblo.jp/article/27840361.html
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小学校「JSL国語科」の授業作り
(外国人児童の「教科と日本語」シリーズ)
JSLカリキュラム研究会(今澤悌・齋藤ひろみ・池上摩希子)著、佐藤郡衛 監修
スリーエーネットワーク
http://www.3anet.co.jp/ja/1916/
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