母語とバイリンガルについて

  香港で子育て香港で子育てをしていると、「母語」「バイリンガル」などといった言葉をよく耳にしますよね。何となく分かっている気にはなっているものの・・・実際のところ何だろう?と思ったことはありませんか?

このページは、専門書(中島和子著『ことばと教育』など)を中心とした書籍や雑誌、ウェブサイトなどをもとに、香港ママの便利帳スタッフがまとめました。内容によっては、他の説があるものもあります。
より詳しい内容をお知りになりたい方は、下記のページをご参照ください。
母語についての本は、こちら
母語についてのウェブサイトについては、こちら

 

【母語とは?】

  • 子どもが出会う初めてのことば
  • 親のことば(国際結婚などで父・母が子どもに話しかけることばが違う場合は、
    2つのことばを合わせたことばがその子の母語となると考えられている)
  • 土台(ベース)になることば
  • 思考力や表現力を養う際の軸になることば
  • 考える時、夢を見る時、数を数える時、日記をつける時、詩を書く時などに使うことば
  • 無意識の層につながっていて、一番自信をもって自由に使えることば
  • 自分が成員として受け入れられている言語集団のことば

単に会話の手段として用いるだけでなく、学習内容についての理解力、さらには思考力などの、人間として必要な能力の発達や文化的なアイデンティティの形成にも、重要な役割を果たしていると考えられています。

 

【母語の働き】

  • 親のことばで、「親」と「子」の絆を作る
  • ことばを使って、親以外の周囲の人と交流することを学ぶ
  • ことばを使って、自分の気持ちや意志を人に伝えることを学ぶ
  • ことばを使って、「考える」ことを学ぶ

これらの上にトータルな生活体験を通して、親の文化の担い手として相応しい行動パターンや価値観、感じ方を学んで行きます。
親の文化の担い手としてのアイデンティティを身につけるという働きもあります。初めてのことばは、子どもの人間形成に大変大事な役割を担っている、その子のルーツと言えるものなのです。

 

【母語の習得】

母語の学習は決して簡単なものではありません。

ヘレン・ケラーの話にもあるように、初めて「水」ということばを覚えるためには、流しの水、プールの水、雨の水、コップの水、シャワーの水など色々な形の「水」をまず実際に体験しなければなりません。

この体験を通して、子どもは「こういうものが水っていうのかな?」と見当をつけ、実際に使ってみては、人の反応を見ながら確かめる・・・という作業を繰り返して、「水」ということばが定着していくのです。

外国語学習が難しいと思われがちですが、既に母語で「水」という概念が分かっていれば(このような体験・確認の作業が必要ないので)、母語学習よりも簡単なのです。(詳細は、こちら

 

【バイリンガルとは?】

「2つのことばをきちんと使い分ける力を持っている人」ですが、本当の意味でのバイリンガルである「二重バイリンガル」は少なく、「平衡バイリンガル」と「偏重バイリンガル」が多いのです。

  • 二重バイリンガル:読み書きも含めて、両言語を年相応に母語話者と同じように完璧に操れる人
  • 平衡バイリンガル:両言語の能力の差はないが、いずれも母語話者の能力には及ばない人
  • 偏重バイリンガル:いずれかの能力は母語話者と同じだが、もう一方の能力は母語話者に比べて劣る人
  • モノリンガル:1つのことばだけ操る人
  • セミリンガル:こちら

 

【バイリンガル育成のメリットと適齢期】

バイリンガルに育つと、以下のようなメリットがあると言われています。

  • 知的発達を刺激する
  • 言語感覚を鋭くする
  • 異文化理解を深める
  • 第3外国語の習得を速める
  • 思考に柔軟性がある
  • 創造力が旺盛である

言語形成期である2歳頃から12歳~13歳の子ども(詳細は、こちら)は、ことばの使い分けをしなければならない状況に置かれると、必要に迫られて自然に習得していくので、2つの言葉をきちんと使い分けなければならない状況を作り出すことが一番大事です。

自然習得の力は子どもの年齢が高くなるに連れて弱まるので、幼児から小学校の終わりくらいまでの時期が育成の適齢期(臨界期説→こちら)とも言えますが、一方、9歳までの子どもはそれを維持することが難しいので、長い目で育成する考えが大切です。

 

【セミリンガル現象】

バイリンガルに対して、セミリンガルをいうことばを聞いた方もいると思いますが、どういうことでしょうか?
セミリンガル現象とは、母語と外国語の両方のことばが、年齢・学年相当のレベルより低くなることです。外国で育っている子どもは(また、国際結婚などで両親のことばが異なる場合も)、どの子も一時的にはセミリンガル的現象を持つ可能性があります。

具体例:

  • 母語(ここでは日本語とします)に外国語(英語など)が混ざる
  • 間違いが増える(例:「このアイス、寒いね」)
  • 語彙が限られる、いつも同じような表現しかできない
  • きょうだいでの会話・けんかなどが外国語になる
  • 母語での会話を嫌がるようになる

外国に住むことになった理由・時期・環境にもよりますが、下記のような問題が起きることがあります。

  • 幼児の母語発達遅滞:急に違った言語環境に放り込まれ、ことばそのものの発達が遅れる
  • 新言語の習得途上の弊害:外国語がどんどん伸びていく間に、母語の力が急速に落ちていく

(学齢期の途中から異言語環境での学習を余儀なくされる子どもたちにとっての、避けて通れない試練)

更には、どちらの言語でも自分の表現したいことが表現できなくなり、その結果、情緒不安定になったり、思考力や人間形成上に深刻な影響を与えることもあります。

 

【バイリンガル教育における母語の役割】

何事にも基礎が大事であるように、言葉の習得では母語(初めてのことば)が大切な役割をします。
母語の発達がしっかりしていることが、2番目のことばの習得の成功の鍵です。
また2番目のことばの学習に成功すれば、3番目・4番目の外国語の学習も速くなります。
そして、母語が中途半端だと、その次のことばも中途半端になる傾向があります。

外国語で学習をする必要に迫られる子どもには、特に母語の基礎作りが大切です。
母語・母文化の基礎作りの時期に2言語環境に入ったために、母語・母文化の発達が阻まれることがあるからです。

 

【母語と学習言語、思考言語】

学習言語とは、教科書やテストの設問に出てくる用語や、学校の先生が授業で用いる表現と考えると分かりやすいでしょう。
母語と学習言語が一時的に(外国生活などで)異なり、将来は(帰国などで)同じになる場合、子どもの発達や学校生活・勉強に深刻な影響が出てしまうかもし れません。家庭や日常生活の中では使う場面がないため、家庭学習の取り組み方を工夫する必要があります。(例:教科書を一緒に読む。宿題に一緒に取り組 み、理解度を確認する。)
「日常会話ができていれば、そのうち自然に覚える」という考えは危険です。子どもには、母語を育んだり学習を行うのに適した年齢・時期というものがありま す。その好機を逃してしまうと、その習得・回復に、親子でとても大きなエネルギーを要してしまうことになります。
この下は、それらの年齢・時期について説明したものです。

 

【年齢と母語形成】

専門的な内容になりますが、バイリンガル教育の基礎となる母語がどのように形成されていくかを知りたい方のために、掲載します。

言語形成期前期:
0-2歳 ゆりかご時代
(親の一方的な話しかけの時代)
3-4歳 子供部屋時代
(自分からことばを使って積極的に周りの世界に働きかける時代)
5-6歳 遊び友達時代
(社会性が発達して子供同士の遊びができるようになる時代)

言語形成期後期:
7-8歳 学校友達時代前半
(親よりも学校友達の影響をより多く受ける時代)
9-12歳 学校友達時代後半
(親よりも学校友達の影響をより多く受ける時代)

言語形成期終了後:
13-15歳 地域社会時代

以下はそれぞれの「時代」の説明です。

母語が日本語で、外国での生活が一時的である(将来は日本に帰国する)親子を想定した内容です。国際結婚など、日本への帰国予定がない(または当分先になる)方にとっては異なる部分もあります。

《 ゆりかご時代 》
母語を話し出す時期。親が愛情を持って、本物の母語(自信を持って話せる言葉)で赤ちゃんに話しかけるのが、何より大事。
国際結婚など両親それぞれの母語であれば、2言語で話しかけたとしても、赤ちゃんが話し出す時期が遅くなるということはない。

《 子ども部屋時代 》
日ごとに語彙が増え、言葉で気持ちを表現し、言葉を使って考えるということを学ぶ時期。1つの文化の担い手となるのもこの時期。
2言語に触れても、そのこと自体が子のことばの成長を遅らせるということはないが、急激な言語環境の変化は、せっかく伸びかかった母語の発達の芽を摘み取 り、混乱を招く結果にもなりかねない。ナーサリーに預けっぱなしにせず、日本にいる場合と同様、それ以上に母語が伸びるように努力しながら、外国語には 徐々に触れさせるべき。
この時期は「話し合い」が特に大事。どのような「話し合い」をしているかということが、学校に入ってからの成績と非常に関係がある。量よりも質。

《 遊び友達時代 》
社会性が発達し、「ごっこ遊び」、集団生活ができる。言葉の分析力がつき、しりとりなどの言葉遊びもできるようになる。
文字に対する興味もでて来るので、毎日の本の読み聞かせが重要。(バイリンガルに育てたい場合は必要不可欠。)
会話中心の言語力が読み書きの力にジャンプするのは、母語でするのが一番効果的。
この時期に2言語に十分に接触すると自然に2言語を覚えるが、子供部屋時代同様、急激な言語環境の変化はよくない。例えば、海外に出て現地の保育所に1日 中“外国語漬け”になったりすると、子供が情緒不安定になって、せっかく伸びていた母語の発達が停滞することがある。外国語の習得は焦らない方が賢明。

《 学校友達時代前半 》
話し言葉が固まり、読み書きの基礎ができる大事な時期。親よりも友人や遊び仲間が大事になるが、まだ親子の話し合い、交流が大切で、一緒に日本のテレビを 見たり、一緒に本を読んで話し合ったり、通信教育の勉強に楽しく取り組んだりすることによって、子供の言葉の力はぐっと伸びる。
2言語を育てるためには特に親子の質の高い交流が大事。この時代に海外に出た場合は、この時期に日本語でのコミュニケーションを通して親との絆をしっかり築いておかないと、現地の言葉の習得が進むに連れて、日本語が消える危険性がある。
しつけの一部として、家では日本語、外では現地語・英語というような明確なルールを作り、崩さないことが大事。

《 学校友達時代後半 》
小学校3年生ぐらいになると、自立心が旺盛になり、自我に目覚め、勉強にも自分なりの取り組み方をするようになる。読解力もついて、抽象的な内容のものも読めるようになる。
「外国」「外国人」にも興味がでてくるから、この時期の海外旅行や海外キャンプなどは大変意味がある。
また、言葉のコントロールや分析力も急速に伸びるので、単語を取り出して覚えるとか、文法ルールを整理して頭に入れるということも可能。文化の差に対する理解や比較などもできるようになる。

《 地域社会時代 》
学校生活を通して、その土地に根を下ろす大切な時期。
この時期に一番必要なのは良い友達集団。そのため、この時期に、今まで親しかった友達や教師から離れ、海外に出るとなると不適応を起こすことが多い。
この時期は言語によるコミュニケーションが大事で、いっぱしにモノが言えないと、友人関係で軽んじられることもあり、外国語の習得が進むまでは、心理的な圧迫が多く、なかなか効果も上がらず、辛い思いをする。

 

【臨界期説】
「母語の習得の欠陥は臨界期を過ぎると回復不可能だから、2言語接触の環境が思考言語の妨げとなる場合は、親のチョイスで1言語にすべきである」「脳の性 質上、9歳前までに始めるのが良い」「思春期を境にして言語習得が難しくなる」などと言われることがあるが、未だに臨界期に入る時期や終わる時期などにつ いての定見はなく、子供はそれぞれの年齢によって言語の習得のプラス面とマイナス面があるだけで、ある年齢になると言葉の習得が不可能になると言うことは ない。
臨界期説に振り回されず、与えられた環境のなかで、その子供の年齢にふさわしい言葉の力を最大限に獲得する努力を、周囲の親や教師はすべき。余裕のある長期的構えが必要。