子どもの母語と日本語教育 (Q&A) 2

このページは、香港・日本で日本語(言語・母語・継承語) に関わられている専門家の方々にご協力をいただき、作成しました。

【質問2】

我が家は両親とも日本人ですが、香港にほぼずっと暮らす予定の家庭です。今のところアマさん(フィリピン人のメイド)はおらず、家庭では日本語を話してい ます。現在2歳4ヶ月の娘がおり、とても活発なため、今年の4月からインターの幼稚園へ毎日、午前中だけ通わせ始めましたが、小学校は日本人小学校へ入れ ようと思っているので、来年の4月に日系に移すかどうかまだ悩んでいます。

① 幼稚園で日本語に対する遅れが出た場合、小学校に行ってから学ぶというのでは、遅い(2歳~6歳くらいまでにできた遅れはその後修復不可能となってしまったり、セミリンガルになってしまったりする)のでしょうか?

② 中学まで日系の学校に通わせて、高校からインターへ行くことは難しくないでしょうか。

どうぞ宜しくお願い致します。
(香港在住3年 S・A)

【回答1】

質問①のお答え:
家の中では日本語、インターの幼稚園では英語というように、2言語環境にずっと身をおいていたお子さんが、小学校入学と同時に、突然日本語だけの学習環境 に身をおくことになった場合、お子さんの中で少なからず混乱が起こることは想定するべきだと思います。一般的にいえば、その年齢の子どもの場合、言語の習 得は非常に早いので、家の中で常に日本語を話しているのなら、たとえ、日本人学校入学直後に使用言語の混乱があっても、ほどなくして、日本語のみの学習環 境に順応していくと思われますので、さほどの心配はないかと思われます。もっとも重要なことは、お子さんの性格を見極めて、配慮してあげることです。物怖 じしない性格であったり、他人に積極的に関わる性格であったり、だれとでもすぐに打ち解けて友達になれるようなお子さんである場合は、日本語のみの学習環 境への順応も早いと思われますし、少々の使用言語にまつわる混乱も乗り越えていけると思われます。一方、内気であったり、友達を作ることが得意でなかった り、周囲のことを気にするタイプであったり、誰かに何かを言われたりすることに敏感であったりするお子さんの場合は、日本語で遅れをとっているということ が引け目になってしまうかもしれません。それが、日本人学校への適応にマイナスに働く可能性があるといえます。極端な場合は、登校拒否をしたり、学校に行 けても「選択制緘黙(学校でのみ発話ができない)」になったりすることも想定できますので、まずはお子さんの性格を見極めてから、小学校入学前の言語環境 を調整することが大切だと言えます。

質問②のお答え:
お子さんの言語環境は、家庭内および学校では日本語がメインであることに付け加え、(中学まで日系の学校に在学となれば)友達との会話もほぼ日本語である というわけですから、早い段階から意図的に英語を習得するように努力しなければ、高校からインターナショナルスクールに進学することは難しいでしょう。高 校からのインターナショナルスクールへの進学を希望するならば、少なくとも5年以上前から、インターナショナルスクールでの学習言語のレベルに追いつくた めの学習を開始する必要性があることはいうまでもないことです。ネイティブの教師を家庭教師として雇用する、英会話の環境を意図的に作るなど、そのための 方法は、香港なら見つけやすいと思いますが、それによって、英語を話す人たちとコミュニケーションが取れるようになったからといって、インターナショナル スクール入学後に、学習面でついていけるかどうかは未知数です。ある研究者の研究では、日本語母語話者で、英語でコミュニケーションを取ることに問題がな い場合でも、英語環境での学習面では追いついていけないというケースが多いことが指摘されています。また、多くの研究者は、学習言語としての英語を獲得す るためには、最低でも5年はかかることや、日常会話習得と学習会話習得にかかる時間には大きなギャップがあることを指摘しています。英語によるコミュニ ケーションが取れているからといって、インターナショナルスクールでの学習を問題なくこなすことができると判断することはリスキーであるといえますし、親 御さんはその点を十分認識する必要があります。言い換えれば、逆算して、少なくともインターナショナルスクールに入学する5年~10年くらい前から、意識 的に積極的に、英語による学習会話習得のために努力することは、不可欠なことであるといえます。

 

【ご回答者(合田美穂先生) プロフィール】

現職:
香港中文大学歴史学系・日本研究学系 (兼任助理教授)、 静岡産業大学経営学部 (兼任講師)

職歴:
甲南女子大学文学部、 園田学園女子大学短期大学部、 シンガポール国立大学日本研究学科、 シンガポール日本語補習学校 (以上兼任講師)

取得学位および免許など:
博士・修士(社会学)、中学校高等学校専修教員免許(社会科)、専門社会調査士(認定資格)

著書(分担執筆):
田村慶子編著『シンガポールを知るための60章』、明石書店 (2001年)
中牧弘孜編『日本の社縁文化』、東方書店(2003年)
山下清海編著『華人社会がわかる本』、明石書店 (2005年4月)
足立伸子編著『ジャパニーズ・ディアスポラ』、新泉社(2008年)
郭俊海他編『シンガポール都市論』、勉誠出版(2009年) 等

2010年7月4日