布おむつ

人は自分にないものを欲しがるものである。子ども時代、私は走るのがめっぽう遅かった。いや、特別遅いというわけではなかったが、私の中で、早く走りたいという願望がそれ以上にあったと言ったほうが正確かもしれない。たいていのことはがんばって努力すれば、そこそこの位置まで這い上がることができたのだが、こればっかりは、どうすることもできず、運動会の前日には決まって、「明日大雨が降りますように」と真っ黒い照る照る坊主を軒先に吊り下げたりした。しかし、運動会の日程というのは、統計的に雨天の少ない日を選んで決定している。天が私の味方をすることなんて有り得ないのである。
本日も晴天なり。目が覚めると同時におなかが痛くなったものだった。運動会の種目の中で何が一番嫌いかといえば、もちろんかけっこである。「なぜあんな見世物のようなことを人前でやらなければいけないのだろう」と私は真剣に考えてきた。私より明らかに足の短い子がゆうゆうと私を追い越していく。物理的に見ると、私のほうが優勢のはずなのだが・・・
娘が生まれた。健康に育ってくれさえすれば、そのほかは何も望まない。というのは本音であるわけはない。実際子どもが少し大きくなると、親の欲望は限りがないものだということを子ども自身が一番感じるものだ。私の願望は、とにかく足の速い子に育てたい。しかし、私のDNAの入った子どもたちである。先天的な才能が備わっていないのは覚悟をしている。しからば、後天的に少しでも足を早くするために親としてできることはないだろうか。実験好きの私である。「いまどき・・・」と何度も言われ、奇異な視線を感じた。が「布おむつ」である。私はこの道具に願いをこめて、清水の舞台から飛び降りる決心をし、数万円もする「特上おむつ」に投資した。子どものために貯金をはたいていい楽器や教材を買う親の気持ちわかるわー。
環境はそろった。あとは実践である。

2012年。中学生の長女13歳、小学生の次女10歳、二人そろって100メートル走に参加した。驚くなかれ。両者とも一位だった。夢を見ているのだろうかと自分の目を疑った。

布おむつで育てると足の早い子ができるのか。あまり詳しいことは知らないが、どうやら足の付け根の運動量に関係しているのではないだろうか。布おむつは紙おむつと違って、濡れたら乾いたものにすぐ取り替える。生まれたての頃はおしっこをする回数が非常に多いので、一日に50回ぐらいおむつを取り替えることになる。ということは、毎日50回柔軟、屈伸運動をしている計算だ。赤ちゃんなんて自分では寝返りも打てないのだから、まな板の鯉である。その時期、うちの娘たちの下半身を私が鍛えたのだ。
強気なことを言ってしまったが、実のところ、本当におむつが効いたのかどうかはわからない。今の私にとっては、そんなこと、どうでもよいのである。

かけっこでゴールへ一番に入ってくる。気持ちいいんだろうなあ・・・。私の経験したことのない風を娘たちが感じている。こんなことを私はいつも観客席でファインダーをのぞきながら想像している。
親業もまんざらでもない。またひとつ私のささやかな夢が叶ったわい!

2012年10月16日
ある日の日記より