想像力の魔力

地図帳の中国のページ、チベットの奥、ヒマラヤ付近の濃い茶色の部分を見ていたら、こわくなった。
そのページを私はいつも、急いでとばしていた。
あの地図を思い出すだけで、恐怖のあまり眠れない日もあった。
学校の社会の授業中のこと、じっと見ていると、なんだか茶色い部分に吸い込まれ、自分がどこかへ消えてなくなってしまう、そんな気持ちになった。
幼かった私は自分と同様、他人もあの茶色の部分に対して恐怖心を抱いているのだと思い込んでおり、嫌いな友だちの机の上に、さり気なく、そのページを開いておいたものだった。

*『ワニくんのだいけっさく』私の大好きな絵本の一冊だ。
絵描きのワニくんの所へ初めての客ゾウさんが現れる。ゾウさんは家の中が明るくなるような絵を買いたいとワニくんに告げる。その注文に対して、ワニくん はゾウさんのためだけに特別に絵を描く約束をするが、数日後ワニくんがゾウさんに差し出したのは、何も描かれていない真っ白なキャンバス。ワニくんはゾウさんに「目を閉じて、この絵を心に思い浮かべてごらんなさい。」と促す。

子ども時代の読書によって、想像力が育まれると言われる。私もそれには同意する。が、である。私は本を読むのが大嫌いな子どもだった。小中学時代は国語の教科書さえも読まない子であった。文を読むのが、とにかく苦痛で、どちらかと言えば数学が好きな人間の類だった。文系を希望 し、大学受験を志したものの、国語ができず命取り、理数で得点を補って進学したような人間である。
そのような子ども時代を過ごした私に想像力を養う機会があっただろうかと自問してみる。おそらく本の苦手な私は地図帳によって、それを行っていたのだろう。
私はこの頃からまだ見ぬ異国に対して、必要以上に想像力を働かせ、紙上の旅を試みていたのかもしれない。

それにしても『ワニくんのだいけっさく』逆転の発想でもある。もしかしてもしかすると、あなたもワニくんになれるかも…。
勇気と希望がふつふつと湧き出てくる一冊だ。

2008年12月15日 ある日の日記より
*マックス ベルジュイス 文と絵
清水奈緒子訳
セーラー出版